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第655号 2013(H25) .11発行

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農業と科学 平成25年11月

本号の内容

 

 

人間の健康とミネラル・・・
ケイ素は高血圧,糖尿病予防にも効果

東京農業大学
客員教授 渡辺 和彦

Introduction

 ケイ素が,カルシウムよりも人間の骨密度向上に役立っていた。フラミンガム子孫研究グループの疫学調査の結果である。同グループによる人間でのケイ素吸収率などの実験結果も興味深い。そこで,筆者はすでにそれらの詳細を図書に執筆した(渡辺,2011)。
 本稿では筆者の図書にまだ執筆していないケイ素の新たな研究結果を紹介する。ケイ素が高血圧や糖尿病予防に関与する事実である(Maehiraら,2011ab)。今回はラットやマウスで人間での実験ではないが,いずれ世界のどこかで人間での効果確認研究もなされると思う。

2.真栄平先生のご功績

 真栄平房子先生は琉球大学医学部において,ケイ素の働きについて過去にも多くの研究をされている。前記の遺伝子関連論文は,現職時代はお忙しく,定年後の4年間,職務につかず,執筆に専念され,一流の国際誌に投稿し,4報掲載されている。お電話で話したのだが,留学経験もあり,語学も堪能な医学研究者である。なお,今回は筆者の遺伝子に関する医学知識不足のため,先生の英語論文4報のうち1報を中心に他の論文データも少し解説した程度で,先生のご研究のごく一部の紹介にとどまっていることをお断りし,お詫び申し上げる。

3.ケイ素は高血圧,糖尿病も予防する

 一般的によく知られていることであるが,正常な人間の大動脈はケイ素を多く含んでいる。しかし,年齢と共に低下し,特にアテローム性動脈硬化症になると大動脈のケイ素含有率は著しく低下する。他の研究者がすでにケイ素関与を示唆している(SchwarzK. 1978,Dawsonら,1978)。アテローム性動脈硬化症の発症と高血圧や糖尿病との関係は深い。しかし,高血圧や糖尿病とケイ素の関係についての研究は見当たらない。そこで,真栄平先生は,まず,食餌に含まれるケイ素(Si)やコーラルサンド(サンゴの粉末)(CS)が高血圧を抑えるのではないかとの仮説をたて,高血圧自然発生ラット(SHRs)を試験に用いられた(Maehiraら, 2011a)。
 餌のミネラル含有率を表1に示す。表1ではカルシウム欠如食餌を作成しそれに炭酸カルシウムあるいはコーラルサンドでカルシウム量をそろえている。後にマグネシウム欠如食餌実験もしているが,そのときはマグネシウム添加区は硫酸マグネシウムを使用している。コーラルサンドには表1の左に示すようにケイ素(Si)とストロンチウム(Sr)を多く含んでいるためSi添加区とSr添加区もつくっている。

 4週間齢のラットを購入し,3週間通常の食餌とし,7週齢になったラットを1群8匹とし,表1の4種の飼料で15週齢まで飼育している。表2に飼育終了後のラットの体重等を示すが大きな差異はない。しかし,表2の下に示すように血漿中アンジオテンシンEの含有率はケイ素やコーラルサンド添加区が有意に低下している。なお,アンジオテンシンEは心臓の収縮力を高め,細動脈を収縮させ血圧を上昇させる生理活性をもつポリペプチドの一種である。

 図1に各食餌区ラットの週齢と収縮期血圧を示す。ラットの血圧はシッポの付け根の部分で測定する。Si区とCS区のラットの血圧が低くなっている。

 一方,マグネシウム投与が高血圧を予防することや(Touyz,2003),アテローム性動脈硬化症における脳梗塞や心筋梗塞の発症も血清中の低マグネシウム濃度が問題であることはすでに広く研究されている(Amighiら,2004)。そこで,ラットの食餌中のマグネシウム有無とケイ素有無による収縮期血圧への影響を示したのが図2である。
 ラットの成育への影響は表3に示す。マグネシウム欠如ではラットの食事量も体重増加率も少し低くなっている。図2に示すようにラットの収縮期血圧はケイ素とマグネシウム両者の投与により低下することを認めた。

 マグネシウムはカルシウムの天然の括抗薬と言われており,両者の細胞内濃度関係も重要である。そこで,ラット大動脈平滑筋培養細胞を用いて表4,表5の実験を行っている。培地中へのケイ素添加は細胞内マグネシウム濃度を高めている。しかし,ケイ素50mmol/Lは高濃度過ぎるようである(表4)。このことは別な研究者がすでにラットの生体実験で観察しており,過剰な可溶性ケイ素(Na2SiO3)の経口摂取は血清中マグネシウム濃度の低下を引き起こす(Najdaら,1993)。ケイ素の過剰摂取は注意が必要である。一方,細胞内カルシウム濃度へは両元素の影響は小さい(表5)。細胞内カルシウム濃度の恒常性はマグネシウムより厳密に調整されているようである。

4.ラット胸部大動脈からのRNA抽出による遺伝子実験

 表1の各種食餌で8週間育てたラットの胸部大動脈細胞からRNAを抽出し,逆転写反応によりcDNAを得,リアルタイム定量PCR法で各酵素のmRNA発現量を定量している。その結果が図3である。ここでは,ケイ素摂取で活性の顕著に高まっている3つの酵素,図3のGのPPARγ ,Hのアディポネクチン,JのeNOSについてのみ説明する。
 PPARγ(ピーパーガンマ)は,細胞の核の中にあるタンパク質で,多くのDNAの発現や活性などを調節する働きをする核内受容体型転写因子の一種である。

 図4に示すようにPPARγにある種の物質が結合し活性化されると,脂肪細胞は分化して新しい脂肪細胞が誕生する。誕生した脂肪細胞は小さくて新しく脂肪をため込むことが出来るとともにアディポネクチン(後述)を放出し,インスリン抵抗性の改善につながる。一方,大型脂肪細胞の方は活性化されたPPARγによって,アポトーシスを生じ消滅する。したがって,PPARγの適度な活性化は糖尿病改善に役立つと考えられている。

 なお,真栄平先生は糖尿病に関しては自然発症糖尿病モデルマウス(KKAy/Ta)を用いた別の実験で(Maehiraら,2011b),図5に示したように,コーラルサンドやケイ素,ストロンチウムが糖尿病改善効果を示すことを確認している。同論文の関連遺伝子の発現量を図6に示す。コーラルサンド,ケイ素,ストロンチウム共に関連遺伝子発現量を正常マウスの値に近づけるように作用している。

 なお,飲料水中のストロンチウム含有量が高血圧による心臓病死と負の相関関係があることはテキサス州における45年間の死亡原因調査データの統計解析でも明らかになっている。なお,同調査で、p<0.001で逆相関が認められた元素はストロンチウムとマグネシウムとリチウムで,p<0.01レベルでケイ素とカルシウムが認められている(Dawsonら,1978)。
 アディポネクチンは肥大した脂肪細胞からは分泌しないが正常な小さい脂肪細胞から分泌されるタンパク質で,図7に示すように,AMPキナーゼを活性化させることによって,インスリン受容体を介さない糖取り込みを促進し,細胞内の脂肪酸を燃焼してインスリン受容体の感受性を上げる。
 運動は糖尿病対策に良いのだが,図7右に示すように運動によりATPを消費しAMPが増加するとアディポネクチンによらなくてもAMPキナーゼが活性化し,血中グルコース濃度を低下させる。

 eNOSは,内皮型一酸化窒素合成酵素である。L-アルギニンを基質とし,L-シトルリンとNO(一酸化窒素)を合成する。一酸化窒素は血管拡張作用や血小板凝集抑制作用があり,心臓血管系の健康維持には欠かせない(渡辺,2012)。NOSは硝酸塩関連でも重要である。
 いずれ本誌で「硝酸塩は人体に毒ではなく有益」との題目で紹介するが,野菜から摂取された硝酸塩は唾液で亜硝酸塩になり,胃酸のような低pH下では非酵素的に一酸化窒素に変換され,胃の平滑筋を弛緩し,胃潰場から守る。あるいはピロリ菌から発生する活性酸素と反応し,過酸化亜硝酸を生成しピロリ菌を死滅させる(渡辺,2012)。近年は野菜の抗酸化物質,ビタミンCや各種ポリフェノールによって亜硝酸塩は一酸化窒素に変換され,心臓血管障害予防の主役として働いているとの知見も多く集積されつつある(Machhaら,2012)。

5. Conclusion

 ケイ素が,人間の骨づくりだけでなく,ネズミの実験では,血圧降下あるいは血糖上昇予防に効果があることを示した。人間にこの結果が適合できるか否かは今後の研究を待たねばならない。しかし,「粗食が人間の健康によい」との私たちの経験則の一端をこれらの結果は示唆してくれているように筆者は考えている。
 なお,これらの研究の一部は国立大学法人琉球大学・コーラルバイオテック株式会社(2008)の名前で特許公開されている。

works cited

●Amighi J,Sabeti S,Schlager O,Mlekusch W,Exner M,Lalouschek W,et al.(2004)
 Low serum magnesium predicts neurological events in patients with advanced atherosclerosis. Stroke,35,22-27.

●Dawson EB.,MJ. Frey,TD. Moore,WJ. McGanity(1978)
 Relationship of metal metabolism to vascular disease mortality rates in Texas,Am. J. Clin. Nutr.,31,1188~1197.

●原一雄・山内敏正・窪田直人・戸辺一之・山崎力・永井良三・門脇孝(2003)
 2型糖尿病発症におけるPPARγ遺伝子の役割,日薬理誌,122,317~324.

●国立大学法人琉球大学・コーラルバイオテック株式会社(2008)
 可溶性ケイ素および/またはストロンチウムを含有する化合物を有効成分とする血糖上昇予防・治療剤,
 【公開番号】特開2008-63279(P2008-63279A)【公開日】平成20年3月21日.

●Machha A. and Alan N.(2012)
 SchechterInorganic nitrate: a major player in the cardiovascular health benefits of vegetables?Nutr. Rev.,70,367-372.

●Maehira F.,K. Motomura,N. Ishimine,I. Miyagi,Y. Eguchi,S. Teruya(2011a)
 Soluble silica and coral sand suppress high blood pressure and improve the related aortic gene expressions in spontaneously hypertensive rats,Nutr. Res.,147~156.

●Maehira F.,N. Ishimine,I. Miyagi,Y. Eguchi,K. Shimada,D. Kawaguchi,Y. Oshiro (2011b)
 Anti-diabetic effects including diabetic nephropathy of anti-osteoporotic trace minerals on diabetic mice,Nutrition,27,488~495.

●Najda J,Gminski J,Drozdz M,Danch A.(1993)
 The action of excessive,inorganic silicon(Si)on the mineral metabolism of calcium(Ca)and magnesium(Mg). Biol Trace Elem Res.,37,107-114.

●Schwarz K.(1978)
 Significance and functions of silicon in warm-blooded animals. In: Bendz G,Lindqvist I,editors. Biochemistry of silicon and related problems. New York: Plenum Press; 1978. p. 207-230.

●Touyz RM.(2003)
 Role of magnesium in the pathogenesis of hypertension. Mol Aspects Med. 24,107-136.

●渡辺和彦(2011)
 ミネラルの働きと人間の健康,農文協.

●渡辺和彦・後藤逸男・小川吉雄・六本木和夫(2012)
 土と施肥の新知識,農文協.

 

 

GPS・GISを活用した農業機械の最新技術
一北海道オホーツク管内の実用化実践事例一

北海道農政部生産振興局技術普及課
北見農業試験場駐在技術普及室
主任普及指導員 馬渕 富美子
(農業革新支援専門員)

Introduction

農業機械化のあゆみ

 北海道で農用トラクタが利用され始めたのは1965年頃で,以後トラクタ,コンバインや作業機械などの利用技術は著しく発展してきた。農業生産は多様な農作業が組み合わされ実施されている。一連の農作業には各種の農業機械が導入されており,北海道農業は農業機械がなくては成り立たなくなっている。農業における機械化体系は,一つの作業を一台の機械に置き換えるだけでなく,複数作業を同時に行うことで,作業効率の向上を実現してきた。農業機械は,労働を軽減し,農作業の精度や質を高め,労働生産性や土地生産性を向上させてきた。また,適期作業を実現し,農産物の収量や品質を向上させるなどの役割も果たしてきた。

GPS・GISの普及

 従来の農業生産は,機械を大型化し,化学肥料を一律に投入してきた。この結果,作業効率や生産性は向上したものの,ほ場に必要以上の施肥が行われる場合もあった。この問題を解決するためには,ほ場を細分化して適正量を決定する必要があり,そのためには,ほ場の情報を総合的に考察するデータ分析が必要である。即ち,衛星利用測位システム(GPS),地理情報システム(GIS),センシングデータを活用した作物生育量の分析,診断が重要となっている。
 北海道においては,農家人口,販売農家数の減少,それに伴う一戸当たり経営耕地面積の増大が予測されている。販売農家1戸当たりの平均経営耕地面積は,2025年には33haまで増大し,大規模作地帯のオホーツクでは40haまで増大する見通しにある(『農林業センサスを用いた北海道農業・農村の動向予測』(平成25年1月道総研中央農業試験場より)。また,近年の気象変動によりゲリラ豪雨と呼ばれる集中豪雨や長雨が増え,農作物が湿害に遭遇することも目立つようになっている。湿害でほ場がぬかるみ防除等管理作業が遅れることは,被害の拡大も助長する。土地条件に左右されない機械作業や豪雨時の排水対策などが求められている。
 解決方法のーつとして,ICT技術の活用による精密農業がある。基本的な機械技術としてGPS利用があり,北海道ではGPSを使ったガイダンスシステムの普及が進んでいる。北海道内向け出荷台数が2012年度で830台に上り,前年比143%となった。また,可変施肥システムが開発され,導入が始まっている。
 本稿では,オホーツク管内の農業者が取り組んでいる実用化実践事例を紹介する。

2.オホーツク管内の実用化実践事例

 GPS・GISを活用した農業機械等を管内の多くの農業者は既に現地で活用している。実用化実践事例を広く伝えるため,オホーツク管内では,2011年8月30日,2012年6月21日,2013年6月19日と3年間にわたり「オホーツク新農業機械実用化実践セミナー」を開催した。オホーツク総合振興局,網走農業改良普及センターおよび道総研北見農業試験場が主催し,管内の農業者や関係機関など約300名が参集している。

(1)GPSを活用した速度連動施肥コントローラの実用化

 これまでの施肥は,トラクタの走行速度と施肥機の単位時間当たり排出量で調整していた。しかし,トラクタは低速の上,ほ場状況などがタイヤの回転数に大きく影響するため,正確な速度の把握が難しく,散布ムラの要因となっていた。
 GPSの特徴の一つに,土壌条件などに左右されない精度の高い速度計測機能がある。GPS速度センサにより正確なトラクタの速度を把握し,その速度を施肥機の排出量に連動することで,適正量を均一に散布することができる。このため,計画と実際の差異が極めて小さくなり,コスト低減効果も大きくなる。
 美幌町農業者M氏らが開発した速度連動施肥コントローラは,走行中に手元のコントローラで作物の生育の良否により慣行施肥量の10%~190%まで可変施肥することが可能である。この装置を使うことで運転に集中できる上,肥料の残量などを把握し作業が効率化できる。また,コントローラをカルチやロータリ等作業機に取り付けて複合作業機として利用できる。てんさい移植栽培のロータリ+施肥,てんさい直播栽培のロータリ+施肥+は種+鎮圧,にんじんやはれいしょの追肥+培土作業を同時に行うなどの機械体系を考案した。アイディア次第でいろいろな機械に応用することが可能である(写真1)。

(2)GPSを活用したレーザーレベラーの利用

 異常気象に対応した排水対策について,以下の提案があった。
①ほ場の中に凹地を作らない,
②確実な心土破砕をし暗渠,明渠につなげる,
③作業適期に完了できるよう能率を高める,
④硬盤形成が少ないクローラタイプのトラクタを使う
等である。
 網走農業改良普及センタ一美幌支所では,大空町女満別の排水改善技術導入の取組として,簡易な排水対策工法である傾斜均平工法(レーザーレベラー)の実証ほ場を設置し,時系列で隣接ほ場との差を観察し,施工効果を確認している(写真2)。当初の計画どおり豪雨時には表面水が高位部から低位部へとスムーズに排水されていた。
 この実証結果,受益面積758haに16台のレーザーレベラーが導入され,「女満別レーザーレベラ一利用組合(構成農家100戸)」の設立につながった。

(3)ポテトプランタの欠株補給装置

 ばれいしょの植え付けでは10a当たり100~150個の欠株が生じる。そのうち50~80%は補助者が補給するが,2畦または4畦を同時に監視することが必要で,見逃しが生じるといった問題があった。また,補助者は1日当たり12 万個以上の種イモを左右のカップともに監視しなければならないため,熟練と動体視力が必要である。植え付け速度も制限されるだけでなく,長時間の作業で疲労やストレスが大きい作業であった。
 美幌町農業者M氏は,欠株補給装置の電子回路を新たに開発設計,組み立て,制御回路をつくり,センサですくい上げカップ位置と種イモの有無を検知,チェーン式コンベアにより種イモを供給して欠株をなくす仕組みの装置を開発した。切りイモや全粒イモなど,種イモの形状にとらわれずに作業できる。また,総播種イモ数,欠株補充数,は種面積などをカウント表示する制御盤を取り付けるなど工夫を重ねている。
 この装置により,補助者は,監視する時の精神的・肉体的疲労を軽減でき,左右のラインを同時に監視する目と首の疲労が軽減される。今後,種イモの補充方法等を改良し,補助者なしでも可能な作業の自動化をめざしている。

(4)精密農業の取り組みとトラクタ・作業機間の情報通信技術

精密農業の効果

 ほ場の状態と作物の状態を記録し,適正な作物栽培管理を行うことが精密農業の大きな柱になる。大空町東藻琴農業者M氏は,土壌センサを使い土壌養分のマップ,生育センサを使って作物の生育マップを作り,これらの情報をGPSから得られた位置情報とともに保存し,可変施肥を実行することにより高品質,高収量,環境に優しい作物生産を行うことを可能にしている(図1・2)。

生育センサを活用した可変施肥

 一つのほ場内でも土壌や作物の生育にはばらつきがあり,最終的には収量や品質の相違につながる。このばらつきに応じて施肥量を変えることが可変施肥である。生育センサによりセンシングを行い,生育マップを作成し,センサ値により施肥量を換算し,マップ上の走行位置により施肥量を取得して施肥機に送る。施肥機は指示量に速度を加味してシャッタ開度を調整して肥料を散布する。

トラクタ・作業機間の情報通信技術(CANバスによるトラクタと作業機間のネットワーク)

 これまでは,トラクタの端末と作業機の端末が独立して搭載されていて,運転者が両方を監視しそれぞれの操作を行っていた。これらの情報がひとつのケーブルに接続されるとバーチャルターミナル一つで全ての監視,操作が行えるようになる(図3)。

ISOBUSとバーチャルターミナルと3点オートヒッチの標準化

 農作業事故は,トラクタと作業機の脱着時に起きることが多い。作業機とトラクタの間に人が入って作業をするためで,3点オートヒッチの標準化ができれば作業者がトラクタから降りることなく作業機の脱着が可能になり,事故を減らせる可能性がある。作業機の脱着と調整には30分~90分要し,農繁期にはトラクタと作業機を付けたままになることがある。作業機の調整が簡単になり,脱着と設定が自動化されるとコスト低減と作業時間の短縮が可能となる。

(5)生育センサ,GPSを活用した可変施肥,効率的な農業機械の利用

大規模経営での可変施肥の必要性

 経営面積は圏内最大級の555ヘクタール,うち秋まき小麦192ヘクタールの佐呂間町大規模農業生産法人の事例である。秋まき小麦の可変施肥の導入理由は,以下のとおりである。
ア 実態
①基肥,追肥の作業方法がブロードキャスタによる全面全層施肥である
②ほ場数が200筆あり,ほ場統合により地力にばらつきがある
③複数の社員により作業を行うことから作業指示,把握に限界がある
イ 効果
①可変施肥により生育のばらつきをなくすことができる
②資材の適正投入により品質向上とコスト低減ができる
③作業効率の向上,的確性の向上,求人の範囲拡大が図られる

生育センサを活用しリアルタイムに施肥

 生育センサによるセンシングをもとにした小麦の可変施肥は,組み込まれた追肥量プログラムによりリアルタイム生育情報をもとに施肥量を自動的にコントロールしている(図4)。生育の悪い場所には多めの施肥を,生育の旺盛な場所には施肥を控えるという生育に応じた施肥をすることにより均一な栽培を行うことが可能となった。

GISを活用した農作業工程管理

 200筆のほ場の特性を把握し,作業者に伝えることは難しい。自分のほ場以外を管理することはプロの農業者でも難しく,まして経験の浅い作業者にはまかせられない。そこで,ITの力を借りてほ場の特性を管理するため,GISを活用した農作業工程管理に取り組んでいる。土壌センシング,生育センシング,施肥制御システムなどをWEB管理することにより,ほ場管理などの精密農業を実現するものである(図5)。

課題と期待

 今後の課題と期待は次のとおりである。
①マップデータ施肥の実施。前作物センシングデータを次作物の基肥可変施肥に使用
②使用者によるデータ解析と補正機能の充実。センシングデータをもとに利用者が任意に設定して可変施肥に使用
③左右可変の実施。より細やかな可変施肥により品質の均一化とコスト削減が可能
④他作物への拡充による導入コストの低減,他作物の品質向上
⑤ディスプレイの大型化,視認性の向上,操作性の向上

効率的な農業機械利用

 小麦,大豆はコンビドリルでは種作業を行っている。パワーハローとシードドリルを同時に作業することにより砕土・鎮圧・は種作業を一度に行い作業能率の向上を図っている。コンバイン等にゴムクローラを装着することにより,ほ場条件の悪い時でも,特に大豆において計画的に作業することが可能である。ほ場を傷めず, トラクタにも装着が可能で汎用性がある(写真3)。

(6)ばれいしょ栽培におけるソイルコンディショニングシステム

 ばれいしょは,畑輪作上重要な作目であるが,収穫作業効率の低さから,畑作経営の適正な輪作と面積拡大を抑制していた。以下は,美幌町農業者S氏らが,省力化と収量,品質の向上に向けて,ソイルコンディショニングシステム(以下ソイルコン),オフセットハーベスタを導入した事例である。

ソイルコンの概要

 植付け前に作土の石礫や土塊を除去し,は種と同時に培土を行うソイルコン体系は,機上選別作業労力の大幅な低減による収穫期の稼働可能面積拡大や,これに伴う単位面積当たりの生産コスト低減が期待できる(写真4,5,6)。

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 収穫作業では,収穫機上の選別台に上がる石礫や土塊の量が少なく,作業速度を速め,作業人員を減らすことが可能である。収穫時の損傷打撲も低減され,歩留まり向上による増収が期待できる。
 植付け床造成に時間がかかるものの,収穫選別時の土塊と石礫が慣行体系に比べ著しく少なく,機上選別作業が軽減し,投下労働時間は約3割削減できた(表1)。
 ソイルコンの導入効果を以下に記載する。
①収穫作業時間が大幅に短縮
②規格内収量が増加し製品化率が高まる
③サイド掘り収穫機の導入による製品率向上
④植付け時間は多少増えるが,小培土,本培土等が省略できる
⑤畦間に,小石,小さい土塊等を置くことで,排水対策になる
⑥防除通路の沈み込みを軽減してくれるので降雨後も24時間後にはトラクタ作業が可能
⑦植付け後,イモの位置が15~20cm深にあるのでイモの周辺の温度が一定になり,萌芽までは外気温に左右されない

 ソイルコンのデメリットは機械のコスト,トラクタの大型化,共同作業の労働力等の確保などがある。
 今後は,作業効率の向上,肥培管理の適正化,普及推進に何が必要か,農家の利益にどのようにつなげるかなどを検討する必要がある。

Conclusion

 農業経営体数の減少が続く中,経営面積の増加は避けられない。現地の開発技術を利用した事例は,機械化による省力化や農作業の快適化に役立つ。一方,従来の高性能化に加えて,農業機械の自動化やほ場の状態や記録に基づく徹密な管理は,収量向上やコスト低減だけでなく,次世代への継承にも大きな役割を果たすことになる。
 GPS・GISを活用した農業機械の自動化やICT化は,農業経営の採算を確保することで,農業構造の変化に対応する技術として発展することを期待する。

用語解説

GPS(全地球測位システム Global Positioning System) 
 衛星からの信号を受信機で受け取り,現在位置を知るシステム。
GIS (地理情報システム Geographic Information System)
 地図上に様々なデータを重ねあわせるシステム。
ISOBUS(lnternational Organization for Standardization)(lSO11783)
 トラクタと作業機との聞の通信規格。異なるメーカーのトラクタと作業機の間でも通信できるように規格化したもの。
バーチャルターミナル(Virtual Terminal)
 今までは,トラクタの端末と作業機の端末が独立して搭載されていて,運転者が両方を監視しそれぞれの操作を行っていた。これらの情報が一つのケーブルに接続されることで,すべての監視操作が行えるようになる。
ICT(lnformation and Communication Technology,情報通信技術)
 IT(Information Technology,情報技術)に通信コミュニケーションの重要性を加味したもの。